きりのPFCSログ

企画「PFCS」のログです。

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【我が音色は律に非ず】14 - 火車の騎手

第十四話
暴力・残虐描写あり。
書き納めです、いつもより長い。




「終わったぜ。菲、例の話を聞かせてくれよ。」
「……忘れはしないさ。3年前の事件をな。」
 掃除や片付けを済ませた菲と遊糸の2人は、何時ものカウンターに座っていた。追憶は、ライブの前に。

「黒燕様、あの事件が再来せぬことを祈るばかりであります」
「……嗚呼、そうだな」
 若頭に報告を済ませた邪剛もまた、数奇にも同じことを回想していた。黒燕も、煙草を吹かし過去を想う。

 蠱幇の男、否、構成員としてすら認められなかった彼の者に未だ脚が有る時代。人間色の腕が有る時代。
翠林クイリンN32型、出番だ。」
ROGER, SET TO SHORT RANGE COMBAT MODE了解、近接格闘モードに設定する
 そして、名前が無かった時代の話だ。

 黒燕の"前座"、即ち彼の前に愚かにもアンダーボスに居座っていた無能がまだ存命の時に、其のアルファは稼働していた。其れが生み出された理由は1つ、前座の守護の為であった。幹部はおろか、一般の構成員の指示ですら忠実に従うように、そして戦闘時には凶暴に戦うようにプログラミングされていた。
「敵の状況を伝えろ」
「ASURAN - 1, SATANIA - 1, ALBIDA - 1, AND...」
 梁姓アスラーン袁姓サターニア朱姓アルビダを其々1人ずつ確認したアルファは、僅かな時間差で"主犯"の種族を解析した。
「MAIN TARGET, SAMSAR - 1. END.」
 そう、謝姓サムサールの黒燕である。
「奴が来るのか?」
PLEASE STATE THE NAME.彼の名を答えよ
 部下はアルファに対し質問を投げかけたが、其れは規定内の答えを返せなかった。ケチをつける男に、別の男が其の事をフォローする。
「面倒な機体だ。」
「仕方ないだろう、こいつは正確性に定評があるんだ。質問も具体的じゃなければな」
 部下の言葉をよそに、其れは指示を待った。前座の守護という目的を遂行する為だけに紫色の燃えるように光る瞳を輝かせていた。
「そうだったなあ……翠林N32型。命令だ。"黒燕を殺せ"。」
 素っ気なく、悍ましい命令を下す部下達。
ROGER了解. ARMING STARTED武装開始
 其の指示をあっさりと受け入れ、まだドレッドヘアではなく黄緑のメッシュを入れた短髪のアルファは戦闘態勢に入った。中指の第三関節を折り曲げ、中手骨の先端を自分の皮膚を食い破って鋭利に引き伸ばす。迸った血は紫色に発光し、露出した骨に纏わりつく。其れは敵の足音を聞き分け、目標を捕捉する。地面を蹴り、走る。先ずは300メートル先のサターニアへ。
CAPTURE捕捉
機械的な闘争心を、露わにして其れは向かった。

「例のアルファだ、気をつけろ邪剛」
「承知」
 其のサターニアはネオン街の光を受け止め仄かに輝く、裏通りに待機していた。無線を通し発信された威忌の声に返答する男こそ邪剛であった。アルファが視界に入ったところで、邪剛も構えを始めた。彼は口を隠しているため、表情が読み取りにくい。然しながらアルファ相手に心理戦は効かない。ステルス機能のある玉虫色の服装も、見抜く力が奴の"機能"の方が上であろう。彼に互角があるとするならば、
「自分の呪詛で返り討ちにするまで」
 光る呪詛を纏った苦無を両手に8本構え、先ずは左手から向かってきたアルファに向けて放つ。唸り声を伴う低い悲鳴。高速且つ速度を維持して放出された苦無はアルファの後を追って黒燕達を攻撃しようとした前座の部下達に命中したが、肝心のアルファには当たらなかった。間合いを詰められる前に邪剛はアルファの足元目掛け2つの苦無を投げた。命中させることが目的ではない。
「間合いを狭められたなら、隙を突いて戦う。」
 両手に苦無を持ち、二刀流の構えに変更した彼はアルファの骨の攻撃を武器を交差することによって受け止めた。相手は生身だ。骨さえ破壊出来れば相手は攻撃手段を失う。しかも青白い光を帯びた苦無は、種族に関係なく相手を電撃で「麻痺」させる力を持つ、「桃弧棘矢とうこきょくし」の呪詛を帯びていた。組織である骨に作用すれば、弱体化を期待できた、筈だが。
SPLASH弾けろ
 何とアルファは自分の骨をまるで爪や髪のようにあっさりとへし折り、呪詛を帯びた液体を飛び散らせた。咄嗟に邪剛は目を瞑ったが、其れがいけなかった。強靭なアルファの脚からがら空きの肚に向かって蹴りを打ち込まれる。ぐう、と低い声を上げ後ずさる邪剛。生じた隙は追撃を許してしまったが、辛うじて彼は躱した。
「蠱幇に此れだけの力があるとは」
 アルファを睨む邪剛。脅しの為だけではない。"援軍"のタイミングを伺っていたのだ。

 此方は邪剛の戦闘場所から500m程離れた場所。威忌と僅かな舎弟を連れ例のアルファから逃れる様に、黒燕は前座を追っていた。だが、
「旦那ァ、警察と挟み撃ちじゃっで!」
 焦る威忌。其れも其の筈、蠱幇や黒燕の不穏な動きを突き止めた警察が動いたのだ。警笛サイレンを鳴らし、パトカーや警備用バイクが此方へ近づいて来る。
「威忌、"鳳鳴朝陽ふうめいちょうよう"を使え」
「こん人数ではだっが明かん!」
 アルビダの威忌の呪詛も強烈であった。だが、範囲に問題が有ると彼は提唱する。
「全員にやれと言っていないだろう。狙え」
 然し一体誰に、というあたふたと慌てながら問う彼に黒燕は冷静に返す。
「バイクに乗っている3人だ。」
「……承知しもした」
 漸く落ち着いた威忌は、深く息を吸うと、
「破ァ!」
 一喝した。時が止まるかのような大声は追い詰める警察を混乱させ……否、実際に彼らの動きを止めていた。前方3人のバイクのパイロットが硬直しているのだ。動きが狂い、押し寄せる様に事故を繰り返す警察達。黒燕の部下達が透かさず手持ちの銃を乱射する。暫くして撃つのをやめろ、と指示し炎上する現場に敢えて近づく黒燕。
「黒燕さぁ!」
 危険を察し思わず叫ぶ威忌。
「嗚呼、ちょっと借り物をね。威忌、周辺の掃討を頼むよ」
 然し黒燕は足を止めず小走りで炎中に向かう。その目的は――

 双方の剣戟が続く。アルファは骨を再生させ、再び「剣」を作っていた。呪詛に頼れない以上、彼を操っている人間が倒れるまで時間稼ぎをするしかない。邪剛は焦った。厲伏の援軍がなければ、更に状況は悪化していたのだろう。
「大分やられていたみたいね……赦して頂戴」
「構わん。自分はお前の様に直ぐ折れたりせん。まだ戦える。」
 遅れて来た事を詫びた厲伏は、仲間と共に銃を携えてやってきた。彼なりの悪態の付き方にフ、と笑う彼女はアルファからある程度距離を置き、引き連れた舎弟と拳銃で援護した。変化した戦況にアルファは高く飛び上がり、銃弾を躱した上に厲伏に近づいた。伸びた骨が彼女の前髪を切り裂く。あと少し後ずさってなければ、視界を奪われていただろう。常の人間なら恐怖する所だが、彼女は違った。笑っていた。顕になった青目は狂気と覚悟を閉じ込めるように、月夜に輝いた。
「邪剛!」
 応じる変わりに彼は苦無を投げ飛ばし、アルファの背中に命中させた。痺れが通じたのか、其れの動きが緩まる。好機を逃さず彼女はアルファの下顎目掛けて高く蹴りを入れた。見事な連携であった。
「ERROR; FAULT IN NEURAL CIRCUIT神経回路に異常アリ
 警鐘を鳴らすアルファに、今度は邪剛が頭上に肘を打ち込んだ。倒れた其れの様子を伺う為、双方共に一旦間合いを広げた。予想通り、其れは起き上がったのだ。紫色の体液と、目を光らせて。
I WILL RELEASE SECRET NEURAL CIRCUITS秘匿神経回路、解放
「隠し玉か」
 苦無を構え直し、行動パターンを変えたアルファを警戒する邪剛。
「……にしては、様子がおかしいわ。」
「[INTERRUPTION CODE割込コード]RELEASE "EMOTIONS"感情を解放する LOADING...」
そのアルファは、"芽生え"ようとしていた。

「何、奴がやられただと!」
「くそ、"解放"して暴れるしかねえ!」
 前座の部下たちに衝撃が走っていた。あのアルファがやられた。彼らにとっての頼みの綱が切れたも当然、顔面蒼白の男たちに更に悪夢が襲来した。唸るエンジン音と共に。
「何だ!?」
 其れは、ドリフト走行を決め、あと一歩で轢かれる所であった前座の手下共の前で停まる。白い警察のバイクに乗っていたのは何と――黒燕であった。先程の喧騒に紛れてバイクを奪ったのだ。明らかに怒りを露わにした表情。呪詛を封印する為の包帯は外していた。
「何をする気かね?」
 アルファに指示を送っていた部下たちは怯える間もなく彼の瞳の呪詛に取り憑かれた。光る水色の3つ目の瞳に閉ざされた感情の力は、
「今迄の恨みも全て返す積りで"奉仕"してもらおうか」
 "彼に尽くす事"である。
「邪剛、厲伏。僕だ。此方は乗っ取った。」
 黒燕様、と2人の声が無線越しに聞こえた。安堵と心配の混じった声であった。遅れてやってきて、彼を窘める威忌の声も聞こえる。
「ご無事で何よりです。ところで、例のアルファはどうしますか」
「そうだねえ」
 邪剛は戦闘不能のアルファの"処理"を尋ねた。状況を尋ねると「感情を解放したがっている」と厲伏が答える。黒燕はううん、と軽く悩み、
「感情を蘇らせているんだろう?其れが完了してから、腕と脚を引きちぎってあげなよ。さぞいい声で鳴いてくれるよ。」
 其れは其れは残虐な発想を提案した。此のような意見に対し彼は首を横に振るような部下は持たない。了解、という男女の声の後に、無線越しに耳をつんざく様なアルファの痛々しい悲鳴が上がった。
「良い断末魔だ」
 そして無線機を片手に、黒燕は無気力になった前座の部下の頭を掴んだ。
「ボスの居場所は何処だい?」
「は、ここから200m離れた鳳光ビルの最上階です……!」
「そうか、ありがとう。」
 軽いやり取りを交わし、その部下の眉間に銃を突きつけ、彼はごく当たり前の様に射殺した。威忌は何も言わず、彼の後を追う。黒燕は、精々したのか、笑っていた。
「……さてと、彼らと合流して、ガラクタの主も殺しにいこうか?」
 妖怪をも怯えさせるような、禍々しい顔で。