きりのPFCSログ

企画「PFCS」のログです。

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【我が音色は律に非ず】18 - 因陀羅の霹靂

第十八話


「おい、クソガキ、ここが何処か分かっちょっのか」
 威忌が睨みを効かせ、
「坊や、迷子?お家に帰りなさい。」
 厲伏が甘い言葉をかけ、
「……背く積もりなら命はないと思え」
 邪剛が脅しをしようとも、彼は、
「いいや、オレは迅律を助けに来た。悪いけどテメーらの話は聞けねえな。おっさん、おばさん!」
 眉間に皺を寄せた3人に歯向かう算段であった。
「まぁまぁ、落ち着け落ち着け。僕の居城で大暴れしたら大変なことになる。」
 そこへ仲裁にはいったのは、意外にも黒燕であったが、
「でもね遊糸くん。諦めて欲しい。……だってこの玩具は僕のモノだから!」
 わざと逆鱗に触れるような言葉を選択し、男は嘲笑った。アラーム音は止んでいたが、遊糸の怒りは消えなかった。
「……迅律、帰るぞ!」
 遊糸は、決して屈することなく迅律に向かって叫んだ。
「私は……」
 其れに応じられなかった迅律は、自問した。
「まだ、テメーは殻を破れないのか!」
 然し、諦めなかった。遊糸は彼を取り戻すために、何度も叫んだ。
からしやかましい!はよこのガキを撃ち殺さんか!」
 威忌が止めを刺したがっていたが、黒燕は最後まで自由にさせてやれと笑った。何をぼさいても無駄だから。其れをねじ伏せるのが快感だと言うかの様に。
「まさか、忘れたのか!迅兄、オレは忘れねーぞ!……オレは迅兄にずっと憧れてきた。オレを拾って、最初に飯食わせて貰った時からずっと慕ってた。悔しいけど迅兄の才能と、努力が凄かったんだ。だからオレはそれを超えたくて、ずっと背中見て追っかけてきた。そう。ずっと。ずっと。一緒にいたかったんだよ。一緒に音楽つくって、飯食って、喧嘩とかもしたけど……それでも笑っていたかった。」
 涙目を堪えて、少年の言葉は続けられた。
「しょうもねー理想だって分かってる。でもそういう夢を見たっていいだろ?迅兄が一流の音楽家になりたいみてーに、オレも迅兄と一緒に音楽してえ、それで、皆を笑顔にしてえよ」
 言葉を返せない迅律。未だ、囚われていた。然しながら記憶の奥底で、叫んでいる本当の自分の声がする。
「でも、迅兄が笑顔じゃなかったら、オレも、誰も、幸せにはなれないし、その音楽を愛せないと思う。……だから!」
 だが、それでも、少年は諦めなかった。渾身の願いを込めて彼は言い放った。

「オレとテメーと、世界の未来のために笑ってくれ、迅兄!」
 紡いだ絆はどこまでも真っ直ぐな雷光となって迅律の心に轟いた。彼は息を飲み、目を見開く。緋色の目に再び光が宿る。あるべき答えを導く為に其れは輝いたのだ。

「"俺"は……っ!」
 彼は、己を取り戻した。立ち上がり、遊糸の元へと駆け寄る。
「迅律!」
 遊糸もまた、驚愕した。諦めかけていた希望を、再び抱くように。
莫迦な、呪詛を振り切っただと?」
 邪剛が思わず声を出す。回りの部下共も混乱に騒然としていた。
「ありがとう、遊糸……もう、大丈夫だ。」
 雑踏を振り払い、強い意思を瞳に込めて彼は笑った。

 そう、迅律は帰ってきたのだ。

「黒燕!今度こそ俺はお前との運命を断ち切って、俺と遊糸の夢の為に道を切り拓く!」
 彼は黒燕の方へ振り向き、宣言した。纏っていたのは嘗て囚われた時の様な独善的な正義ではなく、
「誰にも囚われない俺たちの音楽で、世界を変えてやる!」
 夢のために疾走する信念であった。
「何を言おうが構わん、また呪詛に掛ければ良いこと」
「そうはさせるか!」
 それを再び捻じ曲げようと、黒燕は再び包帯に手をかけ開眼を目論んでいた。然し遊糸が自分の手先から雷霆を生み出し、神話の槍の如く閃光を発した其れが黒燕の目を眩ませた。
「……この、くそ餓鬼、貴様……っ!」
 第三の目を押さえ、姿勢を崩す黒燕。威忌と厲伏が身体を支える。取り巻く部下たちも銃を構え、攻撃の姿勢を取った。
「逃げるぞ、遊糸」
 勝ち目は無い。2人は脱走を決意した。焦りはあったが、迷いはない。強い安心感を得られる友がいるから。
「へへ、やっぱりそうか」
「……非力で、すまない」
「でーじょうぶだよ。そもそも迅兄は、非力じゃない」
 黒燕の言葉や呪詛よりも、ずっと頼れる遊糸の言葉。扉を開け、走る。エレベーターでは間に合わない。階段を駆け下りていく背後から邪剛と威忌が追いかけてくる。
「足音の刻む間隔でわかる。」
 焦燥する迅律は、息を荒げながら言葉を続ける。彼の「音の間隔から速さを正確に測定できる呪詛」を展開させ、
「歩幅の差異を考慮しても、俺達の足の速さでは間に合わない!」
 自分たちが窮地に陥っていることを告げた。
「任せとけ、オレが足止めする!」
 然し遊糸は口角を上げ、再び雷撃を繰り出した。相手の足元を狙って階段の踊り場に罠を設置した。足を止めた邪剛と威忌。舌打ちの声を上の階から迅律は聞き取った。
「よくやった」
 順調だ。ぐるぐると降りていくため目が回りそうだが、一瞬でも休んだら奴らは来る、と2人は足を止めなかった。足音と思われる階段を鳴らす金属音が再び上から響く。まだ大丈夫、まだ間に合う、そう思っていたのも束の間であった。
「其の程度で自分らが」
「たじろぐと思ったか!」
 何も呪詛が使えるのは迅律だけではない。威忌の呪いを込めた声に迅律と遊糸の動きが止まる。そして、階段を飛び降りるように邪剛が高速で駆け下りていき、青く光る手裏剣を2人の前に投げた。其れ以上前へ進むのを止めろ、と言うように。
「やべぇよ迅兄!」
 そして苦無を構え、殺意を明らかにして怯える"獲物"の人間に照準を合わせた。窮地に立たされた遊糸は、電撃を紡ぐことができない。
「くそ、どうすれば……!」
 絶体絶命の迅律達。動くことすら許されない環境。此処まで来たのに、という悔しさ。死を悟り妙に冷静になった迅律は周りの環境に耳を澄ます。最期に聞くのは、この無機質なジェット噴射の……
「……噴射音?おい遊糸。何だ、この音は」
「え、な、なんだよ」
 迅律の耳には、其れが確実に入っていたのだ。
ジェット機の様な音がするぞ」
「……それって!」
 遊糸の声が明るくなる。
「……まさか」
 事情を察した邪剛。そう、音の正体は。
「こっちだ!菲!」
 遊糸は、大声で彼に助けを求めた。彼が最後の望みであったから。