きりのPFCSログ

企画「PFCS」のログです。

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【我が音色は律に非ず】28 - 託された者達

第二八話

 例の双子から住所を送信され、後日端末の地図に記されたナビゲーターに従い建物へと向かった迅律達。彼らに答えは有るのか。探るようにビジネス街を歩いていくと、現れたのは白と銀と硝子の青緑色を帯びた高層ビルであった。国の電力や通信を管理、監視する超重要施設だ。
「迅兄、ほんとに行くんだな」
 此処に来る理由、其れは黒燕との戦いが国の存命を賭けての対決となったことに他ならぬ。
「もう、後には引けないんだ」
 迅律は、受付に向かった。要件を聞かれたので李兄弟の名前を挙げると、受付嬢は畏まった表情をして通信機器を繋いだ。数回頷いてから通信を切り、迅律をエレベーターホールに案内する。
「55階にてお待ちのようです。」

「来てくれて有難う。」
「忙しい中、すまなかった。」
 神父の様な出で立ちに、向かって顔の右を仮面の様な機械で覆った風陣と、左を覆った陽陣。共に壮年で銀髪紫目、そして精霊の象徴とされる長耳を持っていた。顔立ちも瓜二つで、違いを分けるとすれば陽陣の方が髪が短いといったところか。仮面へ環状に等間隔に入れられた切れ込みから、緑色に光る装置がまるで目のように覗く。
「其れで、提案とは」
 本題へと誘導する迅律。
「実物を見てもらおうか」
 陽陣が手を指した方向には、銀色の箱があった。コンピューター関連の機械装置であることは確かだが、
「なにこれ?」
 遊糸が訊くと、風陣が説明した。
「これは服務器サーバーだ。君たちの通信環境を管理し提供するコンピュータだと思ってもらえればいい。」
「……此れで、何が変わるのですか?」
 此れなら、銜尾蛇でごく一般的に構築できる装置である。そしてこれは何の変哲もないサーバーにしか見えない。
「これは、ただのサーバーじゃない。」
 だが国の常識を覆す装置の能力を、陽陣が宣言した。
「我々が開発した"超級加護安全機構"を搭載したサーバーにより、部外者の完全なシャットアウトが実現したネットワーク空間を作成できた。つまり政府や蠱幇の目の届かない所でインターネットが可能となったのだ」
 奇っ怪な言葉を陳列した双子の精霊。それを享受できない遊糸。
「……つまり?」
「つまりも何も、奴らの目の届かない安全圏で音楽活動が出来るということだ。政府当局の精霊が政府逃れをする、という冗談にもならない話を持ちかけているがな」
 はぁ、と呆れたように解説しようとする風陣に、バカで悪かったな、とむすっとする遊糸。
「我々の為に、そこまで用意してくださったのですか」
 迅律は礼をすると、陽陣がそんなに畏まるな、と笑った。
「そうしないと、この国は潰れちまうと危惧してね」
「兄さんの思惑が杞憂だと、嬉しいのですが」
 ふ、と陽陣が笑う。不安がる弟を宥めてから、訪れた2人に助言した。
「暫くはここを拠点にしろ」
「しばらくか……っておい!」
 制限時間があることに、思わず言い返す遊糸。
「強靭な加護による壁があるとはいえ、ヤツらのことだ。いつ破られるかは分からない。」
「それに我々には、君たちにこの環境を差し出してでもやってほしいことがあるのだ。」
 双子も苦い顔をして言葉を続ける。
「……これから話すことはトップシークレットだが、良いか。迅律くん」
「我々と約束してくれ」
 今までもそうだっただろう、と言うのを抑えて頷く迅律。だが隠したがる意味を即座に理解した。
「全ての元凶である、黒燕を討て」
「なるほど、そういうことな。わかったぜおっさん!な、しゅんり……?」
 あっさりと要件を飲む遊糸とは対照的に俯き、考え込む迅律。遊糸、菲、梔花、瑪鱗、そして彼ら。思えば、皆同じことを彼に託していた。確かに、これ以上犠牲を出したくない。然し、迅律は思う。――其れは果たして、世界の願いなのか。

 学園祭当日。緊急で編成し特訓を積んだガールズバンドは、特設ステージで学生たちの熱気を盛り上げていた。特注のコスチュームとギター、ベース、ドラム、キーボード、そしてスタンドマイク。質は高校生特有のそれだが、盛り上がっていればいいのだ。和気藹々と熱狂した、学生特有の若い空気が広がる。
「みんなー!ノッてるうー?」
 エレキギターを携えた人間の女子高生が、スライド奏法を活かして場を湧かそうとした瞬間だ。歓声は悲鳴に変わった。突如観客席にて爆発音。立ち上がる煙。飛び散る破片。血。現れる刺客。"奴ら"に、慈悲はない。
「何、何が起きたの!」
 此れは楽しい楽しい学園祭の筈だ。決してテロ事件の現場などではない、筈だ。
「ちょっと、待ってよ!」
 機材で音を調節していた紫髪の精霊も、涙目で状況を理解しようとする。原因は、主犯者が間もなく告げた。
「我々は音楽家の権利を遵守するため、違法音楽演奏者に対し天誅を申す!」
 高らかな声が唯悍ましく響く。過激な思想に陥り破壊工作を繰り広げたのは……何と、未だ未成年の男子高校生ではないか!瞬間、舞台裏から拳銃を持った男達が飛びかかる。蠱幇の人員の若年化が、此処まで悪化していることを彼女らは知らなかったのだ。警察を呼ぶ電話の通信音が彼方此方あちこちで聞こえ、直にそれはパトカーのサイレン音へと変貌する。事態は悪化の一途、早さは、警察の上を行く蠱幇の手下達。幸いまだ死人は出ていないが、時間の問題だ。此の喧噪が外部に漏れない、などということはなかった。
「ったく、なんだか騒がしいな」
たまたま彼がこの近辺を通りすがっていなかったら。
「おい、工業高校でテロ事件だと?」
「なんか、ヤバイ連中が爆発物を持ち込んで……」
 周りの野次馬に耳を疑ったのは、菲だ。興味を抱いた彼は、ひょいとジェット噴流で人混みを乗り越えて様子を見た。其れは、惨状であった。嘗て暗澹あんたんな世界を渡り歩いた彼に、宿る心。
「……すまねえなレイセク、俺はまだ戦わなくちゃならねぇみたいだ!」
 そして、英雄譚は始まる。