きりのPFCSログ

企画「PFCS」のログです。

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【我が音色は律に非ず】29 - 吼えよ正義の勇士

第二九話

 火力を最大にして会場に向かった菲。罪無き人々を襲う蠱幇を、黒燕の野蛮さを許す気はなかった。悪の世界に身を置いていたからこそ、切り拓ける正義がある。先ずは救助だ。避難を誘導する勇気ある教員に訳を話し、狼狽える警察を縫うように避けて進む。蠱幇の舎弟の銃弾を躱し、死角から相手の右腕を掴み武器を外す。拾おうとした隙にアッパーを打ち込む。吹き飛ぶ相手。然し追撃はしない。首謀者の高校生を脅すことが目的で、殺しの為ではないからだ。だが黒燕の部下達が其の程度で怯えることはなかった。
「誰よ!また増援が来たの?」
 悲痛な声によりステージにも生存者がいるのに気づいたのは同時だった。だが首謀者の方が生存者との距離が近かった事と、舎弟がまだ蔓延っていて無闇に動けなかったことが災いした。首謀者が機材の近くに居た精霊の女子高生の背後に周り、ナイフを首に当てて脅迫したのだ。思わず彼女が声を漏らす。
「こ、こいつがどうなっても良いのか!それ以上近付くな!」
 どこか、震えた声で脅す首謀者。あまりにも流れるように敵を倒していく菲に、恐怖を抱いているのだろう。
「……お前、」
 然し菲も少しだけ近付いて確認すると、その人質に見覚えがあることが判明した。
「……あ、あの時の……!じゃなくて!いいから助けなさいよおっ!」
 嘗てパーツを奪い合った、生意気な精霊。何時ものツインテールは暴動によって解けていた。途端、嫌な思い出が蘇る菲。
「お前だったらいいやぁ」
 判明した途端、何と、勝手に彼は踵を返してしまったのだ。当然、明らかに絶望と怒りを顕にする彼女。
「は?ちょっと!待ってよこのポンコツ!」
 暴れる彼女に、主犯は締める力を強めた。
「バーカ、非礼をした人間を救うヤツがいるか」
「何いってんの?非常事態でしょ!」
 彼に文句を言う元気は、残っている様であった。
「ははははは!愛想が尽きたようだな!」
 首謀者は調子に乗って、人質を手放した。其の隙を見逃す菲ではない。
「……んなもん、初めから尽きてたよ、馬鹿野郎!」
 彼は振り返り、超高速で走る。全力で男を押しのけ人質に近付き、彼女を抱えて救助した。去り際に裏拳をぶちかますと、呻いた首謀者の手からナイフが落ちるのを見届けた。
「は、いきなり、何、ちょっと、待ちなさいよ」
「待ってたら死んでたぞ?」
 腰を掴まれてじたばたする精霊の少女。涼しい顔で教員の所まで運んでいくアルファ。噴射の速度を落とすと、男の前で彼女を下ろした。
樒彩ミーツァイさん、大丈夫ですか……!」
 教員は彼女の名前を知っていたらしく、怪我が軽いことを確認してから、菲に感謝の意を伝える。
「ありがとうございます。何とお礼を申したら良いか」
「礼には及ばねぇよ。……けど、しっかり教育しておけよ、俺が言える立場じゃねえが」
 大変ご迷惑をおかけしました、と頭を下げる教員の向こうで、彼女は突っ慳貪つっけんどんに返した。
「……名前、聞いてなかった。あんた誰」
「ヒーローに名乗る名前なんてないね」
 名前を聞かれても、カッコつけて答えた菲だが、
「嘘つけ!メモリのことまだ覚えてるから、教えたくないんでしょ!」
「お前っ!誰に助けてもらえたと思ってる!この菲様だぞ!」
 すんなりと樒彩に図星を指され、カッとしてしまった。
「……そう。有難う、菲。」
 名前を聞き出して素っ気なくにお礼を言う彼女に対し狐につままれたような顔をする菲。しかし、感謝に対する喜びよりも……
「てめぇっ、呼び捨てか!見かけ上だけとはいえ、俺っちの方が年上なんだぞ」
「ごめんなさいねー、ウチは最近の子だから考え方が今風なんですう」
 生意気を言う樒彩に結局腹を立ててしまった。教師に怒られつつも、銃声の鳴る危険な会場を撤退していく彼女。
「さーて、あとはサツのウザさを信じるしかないな……ったく、助けるんじゃなかった」
 そして菲も、見送る様に其の場を後にした。然し彼は気づいていなかった。若し彼女に面識が無ければ、救おうと動く力も働かなかったと。

 雨季になった夜の銜尾蛇は、スコールが多い。雷雲は豪雨を呼び滴青アスファルトに水は叩きつけられる。雨粒が、彼女の体温を奪っていた。
「あらあら……孤軍奮闘といったところかしら、外交官さん?」
「うる……さいっ……!」
 梔花は鬼である。寿命と引き換えに手にした力は、他国に比べひ弱な銜尾蛇のそれとは言え強い。然し、この状況で一人で戦える相手ではなかった。其れが蠱幇だ。
「私には、守るべき国がある……ここで退けないのよ……っ!」
「守るべき国、ねぇ。はははっ!このお嬢さんは頭でも可笑しいのかしら。」
 蠱幇本拠地のビルの周辺にある街灯の上に立つ、厲伏の高笑いを睨みつける梔花。
「愚弄する気?」
「当然ねぇ。黒燕様を裏切った陳家ちんけな国など、滅びて構わないのよ」
 厲伏の目は前髪で見えないが、明らかに殺気を纏っていた事は声色からも伺えた。
「それと、信念が有るなら、それ相応の準備をしてくることね。」
 彼女の一言から一斉に動く戦局。銃を構える厲伏の部下達を飛び越え、蹴りから突き、殴りと連携するように武術を用いて戦っていく梔花。然し、連戦によって体力は大分奪われている。
「何時まで持つかしら?」
 嘲笑う厲伏。焦る梔花。だが立ち込めた黒い積乱雲は、運命を変える。
金剛の雷霆ヴァジュラ!」
 少年の声。其の声を知らない彼女たちではなかった。天から穿った稲光がビルの避雷針に直撃した途端、梔花の背後からも轟音が鳴る。そして、厲伏の部下達が光と共に感電した。
「へっ、どんなもんだい!……あのおっさん達も良いこと教えてくれるじゃねえか」
「遊糸。何のために来たか考えろ。」
「へいへい。ねーちゃん、一度撤退するよ!」
 ずぶ濡れになった"あの2人"の影が、逆光に照らされていた。